『武士の家計簿』を読んだ
久々に本でも読もうか、ということで、
磯田道史著『武士の家計簿』を借りてきて読みました。
![]() | 武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) (2003/04/10) 磯田 道史 商品詳細を見る |
ちなみに、この本、堺雅人主演で映画化されているそうなのですが、
そんなことはまったく知らず、
単にタイトルが面白そうだったので借りてきました。
肝心の中身。これがまた面白い!
著者が運良く古書店で買ったという、加賀藩会計役人・猪山家の家計簿や手紙類。
この史料から、当時の藩官僚たる武士の生活や、
幕末という時代をどのように生活し、
武士の時代の終焉をどう迎えたのかを詳らかにする、という内容です。
例えば、天保14年(1843年)の時点で、
猪山家は当主の信之と、子の直之が役人として出仕しているのですが、
その年収が2人合わせて1230万円。(銀1匁=4000円での換算)
にもかかわらず、その前年の時点で、猪山家が背負っている借金が約2500万円。
年収の2倍の借金を背負い、年収の3分の1は金利の支払いに持って行かれていたという。
これではイカンということで、
家財や秘蔵の珍品、嫁入り道具等を徹底的に売り飛ばし(総額約1000万)、
借金の整理に乗り出すなど、涙ぐましい努力をしています。
こんな状態ですから、
1人いる男家来には年間約33万円の給料を払っているのに、
(ちなみに、家来はチップ収入もあるので、実収入はもっとある)
働き盛りの直之の小遣いは、年間約8万円。
泣けます…。藩官僚なのに、小遣いが月で約6000円とは…。
何でも、これだけの借金が多いというのは珍しいことではないそうで、
この一因について著者は
・当時の武士は、武士であるために発生する費用(=「身分費用」)、
例えば、冠婚葬祭や祝儀交際に関する費用等が多すぎた
と、論じ、さらに一歩進んで、
・明治維新で「武士の特権」が剥奪されたことにばかり注目されるが、
「武士の義務」から解放された面もある。
特権の剥奪への抵抗が少なかったのは、
義務(身分費用)からの解放に、秘密があるのではないか
と、指摘しています。
なるほど、論拠とする史料が違うと、いろいろな視点が出るものですね。
この他、武士の子育て(教育)や、維新後の武士のフトコロ具合など、
興味深い内容が多い良書だと思います。
ところで、この本を原作とした映画「武士の家計簿」の公式サイトで、
ストーリーを見てみたのですが、
まぁ、映画化となるといろいろと上手に物語を創造するものです。
思わず感心してしまいました。
今度、機会があったら映画も観てみたいと思います。